インボイスで取引を断られたら
「インボイスに登録していないなら、取引はできません」。そう言われたとき、どう受け止めればいいのか。
登録は任意です。ですが、取引先にも事情があります。感情的にならず、線引きを知ったうえで話し合うことが大切です。
この記事では、取引を断られたときの対処を、法律上の線引き・交渉の材料・相談先の順に整理します。登録すべきかの判断は インボイス登録すべきか判断する で解説しています。
01まず相手の事情を理解する
対処の前に、背景を押さえます。
買い手(発注側)が原則課税で申告している場合、インボイスのない仕入れは仕入税額控除ができず、その分の消費税を余分に負担することになります。相手にとっては、実際にコストが増える話です。
「意地悪をされている」わけではなく、負担をどう分け合うかの問題だと捉えると、話し合いがしやすくなります。
02法律上の線引き
一方で、何をしてもよいわけではありません。
公正取引委員会は、免税事業者との取引について考え方を示しています。登録を「要請」すること自体は問題ありませんが、次のような行為は独占禁止法や下請法上の問題となるおそれがあります。
- 登録しないことを理由に、一方的に取引を打ち切る
- 一方的に著しく低い価格を押しつける
- 商品や役務の受領を拒否する
- 登録しなければ取引価格を引き下げると一方的に通告する
大切なのは「一方的かどうか」です。双方が納得して価格を見直すのは、通常の交渉の範囲です。
03交渉の材料① 経過措置
話し合いに使える事実があります。
免税事業者からの仕入れでも、買い手は経過措置により一定割合を控除できます。令和8年10月からの2年間は70%、その後50%、30%と段階的に縮小します。
つまり、相手の負担増は「消費税の全額」ではありません。当面は一部にとどまります。この事実を共有するだけで、話が現実的な数字に落ち着くことがあります。
04交渉の材料② 相手の申告方法
もう1つ、確認する価値のある点です。
取引先が簡易課税や2割特例で申告している場合、仕入税額控除は売上をもとに計算されるため、こちらがインボイスを出せるかどうかは相手の納税額に影響しません。
相手が小規模な事業者なら、この可能性があります。確認してみる価値はあります。
05選べる打ち手
そのうえで、取れる選択肢は3つです。
- 登録する:取引を維持できるが、消費税の納税義務が生まれる(2割特例・3割特例で負担は軽減)
- 価格を調整する:負担増の一部を分担する形で折り合う
- 取引先を分散する:一般消費者向けや、簡易課税・免税の取引先を増やす
どれが正解かは、その取引の重要度と、登録した場合の納税額の試算で決まります。単価交渉の進め方は 単価交渉のコツ で解説しています。
06相談先
一方的な扱いを受けたと感じたら、相談できる窓口があります。
- 公正取引委員会:独占禁止法・下請法に関する相談
- 中小企業庁 下請かけこみ寺:取引上のトラブル相談(無料)
- フリーランス・トラブル110番:フリーランス向けの無料相談
一人で抱えず、状況を整理して相談してみましょう。トラブル全般の相談先は トラブルになったときの相談先 にまとめています。
よくある質問
インボイス未登録を理由に取引を断られるのは違法ですか?
一律に違法とは言えませんが、登録しないことを理由に一方的に取引を打ち切ることは、独占禁止法や下請法上の問題となるおそれがあります。ポイントは「一方的かどうか」で、双方が納得した見直しは通常の交渉の範囲です。
値下げを求められたらどうすればいいですか?
一方的に著しく低い価格を押しつけることは問題となるおそれがあります。まずは経過措置で相手が7割控除できる事実を共有し、負担の実額をもとに話し合いましょう。合意のうえでの調整は問題ありません。
相手にとって本当に負担が増えるのですか?
相手が原則課税なら負担は増えますが、経過措置により当面は7割を控除できるため、全額ではありません。また、相手が簡易課税や2割特例で申告している場合は、納税額に影響しません。
登録しないと仕事がなくなりますか?
取引先によります。一般消費者向けの事業や、簡易課税・免税の取引先が中心なら影響は小さいです。企業取引が中心なら影響が出やすいため、登録した場合の納税額を試算して比べましょう。
どこに相談できますか?
公正取引委員会、中小企業庁の下請かけこみ寺、フリーランス・トラブル110番などで相談できます。いずれも無料で相談できる窓口があります。状況を整理して相談してみましょう。
まとめ
インボイス未登録を理由に取引を断られたときは、まず相手の事情を理解しつつ、法律上の線引きを知っておくことが大切です。登録の要請自体は問題ありませんが、一方的な取引停止や著しい値下げの押しつけは問題となるおそれがあります。
交渉では、経過措置で当面7割の控除ができる事実や、相手が簡易課税・2割特例なら影響がない可能性を共有すると、話が現実的になります。登録・価格調整・取引先の分散という3つの選択肢を、試算をもとに比べて判断しましょう。
法律や税務の最終的な判断は、公的機関の情報や、専門家への相談に従ってください。